2025年4〜6月に読んだ本

・藤川 直也著「誤解を招いたとしたら申し訳ない 政治の言葉/言葉の政治」(講談社現代選書メチエ)
book2025.09
政治家の言葉はずいぶん空しいものに成り下がってしまった。まともな感受性ではああいった木で鼻を括ったような言葉は出てこないと思うのだが、平気であり得ない発言を繰り返し、「それは切り取りだ」「真意と異なる」などとうそぶく。どう切り取られようが、揺るがない自分の言葉の真意は残るはずである。調子に乗ってたとえ話をした部分が問題視されるということは、切り取りによるその政治家の真意とはほど遠い主張と考えるべきではなく、普段からその例えのようなことを考えているからついアドリブで真意が現れてくるのである。「誤解を招いたとしたら」などという、発言を聞いた相手に瑕疵があるような発言は言うだけ空しい。
言葉を大切にできない政治家は無用である。選挙でバンバン落とせばいい。
そんな空しい言葉の含意を、論理学を用いて精密に批判していくのが本書だが、理屈っぽすぎてなかなか頭に言葉が入ってこない。これは私の言葉への感受性が低いのか、論理的理解力がないのかわからないが、もっと一般人にわかるような書き方はできなかったのだろうか?著者はこれでも一般人のレベルまで下りてきて書いているらしいのだが・・


・佐々木 太郎著「コミンテルン 国際共産主義運動とは何だったのか」(中公新書)
book2025.07
タイトル通り、第3インターナショナルとも呼ばれたコミンテルン(国際共産主義の組織)について書かれた本である。非常に具体的で、わかりやすい本だった。ロシア革命後、革命家たちは「世界革命論」に依拠して他のヨーロッパ諸国での社会主義革命に期待した。農業国ロシアだけでは真の社会主義が建設できないと考え、ドイツのような先進国での社会主義革命と連携することが期待されたのである。しかしドイツ革命は第一次世界大戦でのドイツ降伏時に起こったが失敗に帰し、ヴァイマール体制が生まれる。結局コミンテルン大会はヨーロッパの共産党からの代表者の大会にはならず、むしろ社会主義ソヴィエトの指令を受けて植民地からの自立を目指すアジア諸地域の共産主義者が集う大会になった。
中国共産党の初期段階や日本共産党にもコミンテルンは影響力を持ち、スターリン体制を支える国際組織になっていく。
こういう社会主義の歴史をコミンテルンを軸に捉えるには絶好の本だった。


・川端 美季著「風呂と愛国 『清潔な国民』はいかに生まれたか」(NHK出版新書)
book2025.13
「風呂」と「愛国」という一見無関係な両者を繋ぎあわせようとする内容だが、読んでいてところどころ首をかしげたくなる箇所が散見された。定期的にシャワーではなく風呂に入る習慣が日本人の国民性にすり替えられていくところはわかるのだが、潔癖性や自裁行為と結びつくのはどうしてなのでろうか。教育上の「修身」と結びつける部分での教育史の著述が多い割には風呂そのものとの結びつきが弱い文章が続くのは、やはり論拠が弱いからではないだろうか?
なかなか両者を論理的に結びつけるには無理があるように感じられてならない。
もう1つ、電子版で読んだが、全体の60%で本文が終わってしまったのJは残念である。その分註は多いのだが・・


・伊藤 将人著「移動と階級 人生は移動距離で決まるのか」(講談社現代新書)
book2025.18
何気なく毎日している「移動」。その側面をあらためて掘り下げている。移動ができる人、長距離移動を何の心理的障壁もなくできる人は裕福で特権的階級であり、多くの人々はそこまで遠距離の移動を繰り返さない、というところは東京という都会に住んでいるとなかなか自覚できないことだ。

2025年3月に読んだ本

・ビル・ミルコウスキー著 山口三平訳「マイケル・ブレッカー伝 テナーの巨人の音楽と人生」(DU BOOKS)
book2024.41
前回の「読んだ本」でも読書中として挙げた本。やっと読了した。

前途洋々だったマイケルがニューヨークで他のジャズマンにも拡大していた麻薬に一時はおぼれ、そこから自分の意志で更生プログラムを受けて復活し、他のプレイヤーたちへの影響を強めていく過程は印象的だった。
しかしそのマイケルが重篤なガンに罹患し、最後は白血病が回復不能なところまで進行してこの世から去っていくまでは悲壮だった。病状が重篤なのに、レコーディングには自力で立って演奏し、すさまじいまでの迫力でテナーサックスの音を響かせている。いま彼の末期のオ作品を聴いてみても、どこが病魔に冒されているのか音からはまったく分からない(当然だけど)。

以前にも書いたが、若いころ1回だけブレッカーブラザーズ(兄はトランペッターのランディ)のライブを五反田ゆうぽうとで聴いたことがある。マイケルのあらゆる活動をスプレッドシート上に落とし込んだ外国のウェブサイトを見たが、それでも決定的な証拠が見つからない(このサイト、いつのまにか内容が変わってしまった)。
一緒に行ったはずの友人に連絡を取ったが、彼も正確には覚えていないようだ。95年のライブアルバムの時であれば五反田のゆうぽうとでの録音だからいちばん理にかなっているのだが、その年だとコンサートに行くために長男をどこかのシッターに預けたことになる。そのような記憶はないと妻は言う。95年以前だとすると、五反田ゆうぽうとでのライブだと確証が持てる記載がない・・・
とにかく、マイケル・ブレッカーがアコースティックなテナーサックスと当時斬新だったAKAIのウインドシンセ(EWI)を持ち替えて実験的な音を出していたのだけはよく覚えている。

・武田 砂鉄著「テレビ磁石」(光文社)
book2025.05
「武田砂鉄のあのねちっこくて斜に構えた文章でテレビに登場する有名人を切りまくるエッセイ集」と前回書いておいたが、まったくその通り最後まで徹頭徹尾そのままだった。2018年から24年まで「週刊女性」に連載されていたコラムの再編集版である。
武田砂鉄をラジオでよく聴く(というか、砂鉄さんが出ている番組を狙ってよく聴いている)のだが、頻繁にラジオに登場してしかも書評委員などを担い、この本の内容のようにテレビの芸能人も追うという忙しさによく耐えられるなと思う。さらにヘビーメタルのロックコンサートに出かけたり、講演を各地で行ったりしている。40代前半とはいえ、疲れてしまわなければいいが・・

・石塚 真一著「BLUE GIANT MOMENTUM(4)」(小学館 ビッグコミックススペシャル)
book2025.10
ついに4巻まで来た。相変わらず大のジャズカルテットはニューヨークで貧窮にあえいでいる。
変わったことといえば、ニューヨーク郊外の家賃の安いアパートから、ハーレム(マンハッタン島の北部。ハーレムはトルコ語のハレムではなく、オランダ語のハールレム由来)の黒人コミュニティのど真ん中にカルテット全員で転居したことだろうか。そしてライブのオファーも少しは届くようになってきた。
しかし、大はメンバーを置いてサックスのコンテストに出場すべく、ニューヨークを後にする。今度は自家用車ではなく、長距離バスでセントルイスまでの移動だ。このコンテストで優勝すれば、大が有名になり、オファーも舞い込んできてメンバー全員が這い上がれるという目算だ。
マイケル・ブレッカーの評伝を読み、またジャズも聴くようになってきた。私が最近アップしているYouTube動画のBGMはすべてジャズである。何となくテンポの速いビッグバンドジャズ(ミシェル・カミロやマイケル・ブレッカーの兄であるランディも参加しているミンガス・ビッグ・バンドなど)はスキーの滑走に合うような気がするのだが、私だけかもしれない・・

2025年1〜2月に読んだ本

・武部 聡志著「ユーミンの歌声はなぜ心を揺さぶるのか 語り継ぎたい最高の歌い手たち」(集英社新書)
book2025.01
武部聡志さんはよくテレビに出演してピアノで伴奏をしているところを見かける。音楽プロデューサーでもある。実は彼は私の職場とも関係が深い。さまざまな歌手を取り上げてなぜその歌手の歌声が心に響くのか、一人一人取り上げて語っている。年末に読み始めすぐに読了。

・ヤマザキマリ・ラテン語さん著「日ソ戦争」(SBクリエイティブ)
book2025.03
ヤマザキマリとラテン語研究者の対談。非常に面白く読ませてもらった。ラテン語は奥深い。

・高橋 秀実著「ことばの番人」(集英社インターナショナル)
book2024.42
高橋秀実(ひでおみ)は「おすもうさん」「『弱くても勝てます』 開成高校野球部のセオリー」などを読んだことがあるが、まさか昨年秋に突然亡くなってしまうとは・・驚きだった。胃ガンだったらしい。ほぼ同世代のノンフィクションライターだっただけに、悔やまれる。この本は遺作になるが、校正作業がどれだけ大変な作業であるか、少しだけわかったような気がした。

・ビル・ミルコウスキー著 山口三平訳「マイケル・ブレッカー伝 テナーの巨人の音楽と人生」(DU BOOKS)
book2024.41
マイケル・ブレッカーはジャズ・テナーサックス奏者で、天才的な才能を持っていた。ラッキーなことに、若いころ1回だけブレッカーブラザーズ(兄はトランペッターのランディ)のライブを五反田ゆうぽうとに見に行ったことがある。ライブアルバムに収録された95年の公演だったのか、別の年だったのかはよく覚えてない。とにかく、マイケル・ブレッカーがアコースティックなテナーサックスと当時斬新だったウインドシンセを持ち替えて実験的な音を出していたのだけはよく覚えている。
そのマイケル・ブレッカーの評伝である。実はまだ読み終わっていなくて、4割方読み進めたところ。


・武田 砂鉄著「テレビ磁石」(光文社)
book2025.05
この本もまだ4分の1くらいしか読み進めていない。武田砂鉄のあのねちっこくて斜に構えた文章でテレビに登場する有名人を切りまくるエッセイ集。

・原 哲夫著「花の慶次」(コアミックス)
book2025.04
18巻、読了しました!隆慶一郎原作の「一夢庵風流記」とはまた違った味がある。原作では琉球までの旅はなく、朝鮮半島へ慶次は向かう。

・信濃川 日出雄著「山と食欲と私 19」(新潮社バンチコミックス)
book2025.02
もう19巻まで到達した・・

・ヤマザキマリ著「続テルマエ・ロマエ 2」(集英社ジャンプコミックス)
book2025.06
前作の「テルマエ・ロマエ」と中身は大して変わらないのだが、浴場技師、ルシウスの荒唐無稽な活躍が面白い。

2024年10〜12月に読んだ本

・麻田 雅文著「日ソ戦争」(中公新書)
ソ連参戦は8月8日であり、たった一週間でその戦争は終わったが、戦場は満洲、朝鮮半島、樺太、千島列島と複数にわたる。それらを戦争開始以前から説き起こして克明に追っている労作である。著者の「シベリア出兵」(中公新書)や「日露近代史」(講談社現代新書)も読んだことがあるが、いずれもさまざまな知識を与えてくれた。
book2024.27

・東北大学日本史研究室編「東北史講義 (近世・近現代篇)」(ちくま新書)
上下2巻本。東北地方の江戸時代以降の動きの論文集である。12月18日現在、まだ途中で読み終わっていない。ようやく江戸時代が終わるところまで来て、ここからが
面白そうだ。
book2024.17

・平出 和也著「What's Next? 終わりなき未踏への挑戦」(山と渓谷社)
日本を代表するクライマーの平出和也と中島健郎がK2で消息を絶ち、救助が断念された。彼らは救助不可能な絶壁で命を絶った。これは非常に重いできごとだった。平出和也は同郷の長野県出身、山岳カメラマンとしても有名で、田中陽希の百名山徒歩踏破ドキュメンタリー「グレートトラバース」のカメラマンの一人でもあった。田中が苦しみながら登っている岩場の脇をカメラを手持ちしながら田中の前後から撮影するタフな人だった。WOWOWではニュージーランドでの山岳スキー番組のスキーヤーでもあり、華麗とはいえないがいかにも転ばない山スキーの技術を披露してくれた。
この本は登攀を文字で記したものでもあるが、QRコードを読めば登攀の映像が見られる。電子書籍のアドバンテージを活かした書物でもあった。
もっと長くこのような本で彼の登攀の一部を知らしめて欲しかった・・
book2024.30


・寺岡 泰博著「決断 西武・そごう61年目のストライキ」(講談社)
新聞の読書欄での書評から購入。著者は労働組合委員長として経営者たちと渡りあい、結局サブタイトルの通り百貨店としては大変珍しいストライキに踏み切った。西武デパートの吸収・合併と店舗削減はエスカレートし、労働組合としても後退戦を強いられていたから、苦渋に満ちた決断だったに違いない。
book2024.29

・竹原 伸著「ライダーのための基本の乗車姿勢 7つのポイント」(東京図書出版)
ライディング姿勢は非情に大切だと思っている。特に足の置き方、脚の絞り、腰の位置と骨盤の立て方、腕と手首、掌のポジションはライディングを長く続けられるか、すぐに疲れて休憩を取ることになるかの分かれ目である。それぞれ人によって骨格は違うので、その違いはあるにしても、基本の姿勢は同じである。本当はここに書かれていることが動画とも連携していればよくわかるはずなのだが、文字ばかりでは初心者の人にはわかりにくいと思われる。
book2024.32


・捲猫 著・三浦裕子 訳「台湾はだか湯めぐり 北部篇」(中央公論新社)
台湾の温泉は日本統治時代から注目されてきた。現在は台湾の温泉は水着を着て入浴するのが一般的なようだが、中には日本式で全裸で入れる温泉があるらしい。それらをイラストで紹介した本である。残念ながら台湾へは行ったことがないので、読み流すほかなかった。
book2024.34


・本郷 和人著「日本史の違和感」(産経NF文庫)
日本中世史の本郷和人氏の楽しんで読める日本史の本。さばけた文体で一般読者にも日本史の常識を覆す知識を与えてくれる。概して日本史の学者の書物は硬くて読みにくいものが多いが、この人の文章(口述筆記かもしれないが)はとても読みやすい。
book2024.37

・石塚 真一著「BLUE GIANT MOMENTUM(3)」(小学館 ビッグコミックススペシャル)
book2024.36
ニューヨーク編の3巻目に突入。

・柘植 文著「喫茶アネモネ(3)」(東京新聞)
book2024.38
東京新聞の日曜版に連載されている喫茶店「アネモネ」を舞台とするホッコリ漫画。

・東本 昌平著「RIDEX Final」(モーターマガジン社)
book2024.39
終わってしまうのか・・バイクの絵が緻密で、男女の出会いも描かれていてライダーの「ハートカクテル」のようなお話なのだが・・表紙も時代の流れか、色っぽくなくなってきてしまった。

・隆 慶一郎原作 原 哲夫漫画 麻生未央脚本「花の慶次」(全18巻)
book2024.35
現在、11巻まで読了。原作の「一夢庵風流記」はずいぶん前に読んだことがある。
この漫画がパチスロのテーマとなり、角田信朗が歌う「よっしゃあ漢唄」が確変時に流れたらしい。私はパチンコはやらないので知らないが。そしてこの「よっしゃあ漢唄」が一部界隈で盛り上がる歌として再注目を浴びている。原作は読んだし、漫画も読んでみないと、と思って電子書籍大人買いで全巻購入してチビチビ読んでいる。

2024年8〜9月に読んだ本

・東北大学日本史研究室編「東北史講義 (古代・中世篇)」(ちくま新書)
上下2巻本。長い時間をかけて読んできたが、あまり興味が持てないテーマの論文については最後は飛ばした。私の関心は蝦夷(エミシ)の社会にある。
book2024.16

・谷川 嘉浩著「スマホ時代の哲学 失われた孤独をめぐる冒険」(discover)
だいぶ時間が経ったので内容をよく覚えていない。
book2024.20

・河野 一隆著「王墓の謎」(講談社現代新書)
世界各地の王墓の造営の背景には今までの定説とは異なる発想に基づく理由があると提唱している本。これもだいぶ印象が薄れてしまった。読了後すぐに感想を書くクセがついてないので・・
book2024.21

・山本 正嘉著「登山と身体の科学」(講談社ブルーバックス)
コロナ以降、本格的な登山からしばらく遠ざかっている。60代になって、もう一度登山ができる身体を作り上げたい欲求はある。それにはやはり低山を頻繁に登ることが必要なのだそうだ。もう一度筑波山の北西尾根を使ってトレーニングしようか・・でももう少し涼しくならないとダメだな、などと考えているようではそもそもダメだろう・・
book2024.26


・細田 昌志著「力道山未亡人」(小学館)
力道山と結婚した太田敬子さんの現在に至るまでの人生を取材したルポ。大変面白く、短期間で読了した。相模湖の遊園地がもともとゴルフ場として力道山が購入した土地だったとか、東京スポーツの社主は児玉誉士夫だったとか、知らなかった事実が書かれていたそれにしても壮絶な人生。
book2024.28

・西村 カリン著「フランス人記者、日本の学校に驚く」(大和書房)
フランス人が書くと日本の制度をけなしフランスの制度を持ち上げるものだと偏見をもっていたが、著者は公平に両国の教育を見ている。
book2024.25

・スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ著 小梅 けいと画
「戦争は女の顔をしていない 5」(講談社現代新書)
5巻目に突入。スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの本を文字で読んだことはまだないのだが、ほんとうに戦争の残酷さをえぐり出している作品だとコミックを読むだけでわかる。
book2024.31